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宇都宮地方裁判所 昭和31年(行モ)1号 決定

申請人 小嶋広治

被申請人 栃木県鹿沼県税事務所長

主文

被申請人が訴外栃木いすゞ自動車株式会社所有の別紙目録記載の物件につき昭和三十一年二月二十日為した同株式会社に対する貨物自動車税滞納処分は本案判決(当庁昭和三十一年(行)第一号自動車税不当滞納処分取消事件)確定に至るまで一応その効力を停止する。

(裁判官 岡村顕二)

物件目録

一、栃一―四四五一号 貨物自動車 壱台

公売停止申立

申立人  小嶋広治

被申立人 栃木県鹿沼県税務所

自動車税滞納処分に依る貨物自動車公売停止申立事件

申立の趣旨

被申立人の自動車税滞納処分による栃一―四四五一号貨物自動車に対する昭和三十一年三月二十九日の公売は宇都宮地方裁判所昭和三十一年(行)第一号自動車税不当滞納処分取消事件の本案判決確定に至るまで之を停止する

との御裁判を仰ぎます。

申請の理由

一、被申立人は昭和三十一年二月二十日栃一―四四五一号貨物自動車(以下本件自動車と略称す)を該自動車税金参万円の滞納処分として差押をなし申立人より引揚げ公売処分期日を昭和三十一年三月二十九日午前十時と指定した。

二、然るに本件自動車は訴外栃木いすゞ自動車株式会社(以下訴外いすゞ会社と略称す)の所有なりし処申立人は本件自動車につき金弐拾万円の債権を有しその債権の弁済を受くるため昭和二十九年十一月十二日より留置権を行使し保管中のものであつた。

そして訴外いすゞ会社は債権の弁済をなすことなく刑事告訴をなして本件自動車の引渡を求めんとしたが宇都宮地方検察庁は之を民事々件として争うべきを訴外いすゞ会社に勧め申立人も亦民事裁判に於て争うべき準備中であつた。

そこで申立人は差押に来た被申立人所員訴外木暮高に対し訴外いすゞ会社には僅か滞納税参万円を徴収し得る物件は他に数多あり其物件を差押え繋争中の本件自動車の差押処分を中止され度懇願した。

処が訴外木暮は訴外いすゞ会社は税金を払はぬと言つているし尚同会社から本件自動車を是非差押え引揚げてくれと頼まれたから引揚げるといつて申立人の要請を斥け警察官立会の上申立人保管中の本件自動車を申立人より引揚げた。申立人は其翌々日訴外後藤英策をして被申立人に対して前記事情及申立人が本件自動車の占有を失えば留置権を行使することが出来ず債権の回収が非常に困難になるので是非差押を解き申立人に引渡され度懇願したが之を拒否したので申立人は直に異議の申立をなしたるに被申立人は昭和三十一年二月二十五日附を以て異議申立を棄却した。

三、抑々滞納処分としての差押は飽くまでも滞納金徴収に必要なる限度に於て実施することを要し之に反してはならない故に差押物件が滞納金を著しく超過した場合又は差押えんとする物件が繋争中のものである場合には他に差押物件なき場合を除き許さるべきものではない。又差押へが私情のためであつたり特定人の利益を計るためであつたりして滞納処分に名を借りて悪意を以つて実施されてはならない。

本件の場合を見るに滞納金は僅か参万円なるに未だ未使用の新品に等しい時価少くとも四拾万円を下らない本件自動車を差押え然も繋争中のものなることを告知しない納税義務者である訴外いすゞ会社には参万円に該当する差押物件は他に山積し居り且支払能力は充分である。

而して被申立人が本件自動車を差押える理由として納税義務者である訴外いすゞ会社の税金を支払うことは出来ぬとの一片の書面に基き且訴外いすゞ会社が滞納処分として是非本件自動車を差押え申立人から引揚げて貰ひ度いとの要請により引揚げることになつたと云うことは明らかに訴外いすゞ会社の利益を計るために滞納処分に名を藉りた悪意による差押えと云わざるを得ないから此の滞納処分は明らかに違法である。

本件自動車税だからと云つて本件自動車を差押えしなければならぬ理由はないのみならず他意なくば訴外いすゞ会社より容易に徴収し得べきに態々東京迄来て多額の県費を使い繋争中の物件を引揚げる理由はない。之は全く刑事告訴により本件自動車の引揚げに失敗した訴外いすゞ会社が滞納税ある事を奇貨となし被申立人に要求し引揚げの目的を達せんとした所為によるものに外ならない。

被申立人の引揚が訴外いすゞ会社の要請によりなされ引揚げに訴外いすゞ会社の使用人が立会ひ同会社が公売により自動車を手中に収めんと画策している事実は訴外いすゞ会社と被申立人との通謀によるものなりと思惟されるもので、此の滞納処分は職権を濫用した徴収に必要なる限度を超え又は悪意によるものにて違法を免れないものと思考する。

而して申立人の債権は本件自動車を申立人に於て売却処分して弁済に当てることになつて居るものであります。

四、申立人は以上の理由によつて裁決の取消及差押の解除並に物件の引渡を求むべく本訴を御庁に提起し昭和三十一年(行)第一号事件として目下繋争中であります処、若し公売期日に公売処分に付せられんか申立人後日本訴に於て勝訴の判決を受くるも自動車は既になく留置権の行使は不可能となるのみならず本件自動車を申立人の手に於て処分することも出来なくなるので著しく不利な立場となり本件自動車より生じた債権回収は全く不可能となりますので本案判決確定するまで公売停止相成度本申立に及んだ次第であります。

疎明方法

一、差押物件引揚調書(疎第一号証)名刺(疎第二号証)異議申立書(疎第三号証)異議申立棄却書(疎第四号証)公売期日通知書(疎第五号証)内容証明(疎第六号証)を以て申立の理由を疎明す。

附属書類

一、疎第一号証乃至第六号証の各写 壱通

二、代理委任状          壱通

昭和三十一年三月二十日

右申立代理人 山本二郎

宇都宮地方裁判所民事部 御中

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